1998 JGTC Rd.2 ドライバー証言集1

1998年6月に発売された月刊誌Tipoに掲載された、この事故の特集より抜粋。
明らかな誤字は修正しています。注釈は、古屋が付けたものです。


2番手スタート
No.18 TAKATA童夢NSX (GT500)
金石勝智 選手

 僕の場合はタワー(*1)もシグナルも、あんまり見えてなかったという印象を持っています。水煙があったし、とにかく暗くてよく見えなかった。フロントロウ(*2)だったこともあって、スタートで一発決めてやろうと思っていたんですよね。本当にスタートのことしか考えてなかったので、目の前にいるマーシャルカー(*3)のことは、あんまり気にしていませんでした。それでマーシャルカーがピットロードに入らなかったので「スタートしないんだ」と思って、そのままついていったという感じです。
 ぺースカーの速度については、あまりコメントしたくありませんが、3速まで入ったので自分自身の中で結構速いとは思いました。後ろはもっとスピードが出ていただろうし、GT300クラスの人はGT500の人の加速について来れなかったでしょうね。でも、それも結果論。もし事故が起きていなかったら、みんな何も言わなかったと思います。
 ただ、ああいう雨のレースは気持ちのいいものではないですよね。視界が良くないから精神的にはとっても辛いものがあります。僕はフロントロウだから、まだ見えた。でも3列目以降にいたら、全然何も見えませんから。GT300クラスなんて本当に何も見えなかったと思います。前方の視界がないっていうのがどういうことか、そういう状況でレースを走ったことのない人には解らないかも知れませんが、マジメに真っ白なんです。前にいるクルマの影も見えない。ただひたすら真っ白なんですよ。

*1:コントロールタワー  *2:スターティンググリッドの最前列
*3:ペースカー、先導車と同義
で使用

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3番スタート
No.36 カストロール・トムス・スープラ (GT500)
関谷正徳 選手
(*1)

 自分はアマチュア・ドライバーのレースなどで、ぺースカー・ドライバーを引き受けることがあるんですが、その場合、コントロールタワーから無線で指示を受けて速度を調整しています。「今、最後尾が離れてますから、少し速度を落としてください」とか、わりと細かく指示は受けますね。最後尾のセーフティカーから直接無線を受けることはありません。必ずタワーから連絡を受けています。
 今回の事故は、スタートドライバーではなかったので、ピットのモニターで見ていました。確かにぺースカーのスピードは速かったような気はしますが、ぺ−スカーが速かったからあんな事故が起きたんだという問題ではないと思うんです。起きてしまったことを、こうだったら良かったのに……といろいろ言っても駄目なんです。過ぎたことは解決できないんですから。そうではなくて、次に我々がしなければいけないことを、真剣に考える必要があると思うんです。
 この事故で非常に強く感じたのは、消防車や救急車も、動かすのは常に人間なんだということですね。どういうことかというと、設備は整っているかも知れないし、筋書きもできているし、役割分担もできている。でも問題はそこから先なんです。それを機能させるシステムというかソフトがないわけですよ。つまり、誰が全体を管理していて、これこれこういう事故の時には誰が何をするのかという認識が、個人個人にできていなかったんですね。
 これは決してオーガナイザー側だけの問題ではありません。例えばぺースカーの速度は特にレギュレーション(*2)に決まりがあるわけではないですよね。今回のような速度がいつもは普通だったかも知れないわけです。ところが事故が起きた後、みんなが「速すぎた」と怒っている。それなら何故スタート前に言わないのか? 事故が起こるまで誰も「この天気なのでぺースカーの速度を通常よリずっと遅くしてもらいたい」とは言ってないわけですよ。こういう感覚を、エントラントやドライバー側と、オーガナイザーやオフィシャル側が共通認識として持つことが必要だと思うんです。
 自分のポジションに於ける仕事に自己責任を持つことは非常に大切です。ただそこに、意識の相違があってはいけないんです。今回は、事故が起こるまではドライバー側のルール違反やモラルの問題が、また事故が起きてからはオフィシャル側の対応やモラルの問題がクローズアップされてますよね。これは、我々とオーガナイサー側の意識にギャップがあることを意味しています。
 事故が起きるまでのドライバーの側の話しをすれぱ、勘違いしている選手が当然いたわけですよ。スタートの合図というのは確実にあるわけですから、それは守らなくてはいけないものなんです。でもそうしない人がいる。オーガナイザー側はそういう人がいなければ事故は起こらないと考えているんですが、ドライバー側はそう考えていないわけです。ここに大きなギャップがあるんですね。一方事故が起きた後の、救助活動についても同様のことが言えます。あの時、我々ドライバーやエントラントも、レスキューやコントロールタワーの人たちを含めたオフィシャルも、全員が事故にあったドライバーを早く救出したいと思っていたはずなんです。ところが、我々が望んでいる救助活動と、彼らの行動の間にギャップがあったわけですよ。不測の事態に対し常にスタンバっていて、最善の策をとることができるよう考え、訓練されている人だけではないように、少なくとも我々からは見えたわけですね。
 これではいけないんです。個々の人の考え方が、同じ目的に向けて統一されている必要がある。そうするためには、誰が何をどうすべきかがハッキリとわかるソフトが必要なんですよ。
 レースに携わる全ての人が自分が何をすべきかを把握していれぱ、今回のような非惨な事故は2度と起こらないようにできると思うんです。そのために、オーガナイザー側とエントラント側が協力して、様々な意見を交換し合うべきではないでしょうか?


*1:関谷選手はスタートドライバーではなった。だが、ル・マン24時間レースにも優勝している
日本を代表するベテランドライバー
*2:競技規則書のこと(ちなみに翌99年版よりペースカーの速度は明文化される)

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4番手スタート
No.100 RAYBRIG NSX (GT500)
飯田 章 選手

 ずっとコントロールタワーも見えていたし、シグナルも見えました。最終コーナーでぺース力ーが加速したのでもう1周だなということも判りましたよ。スタートするならピットロードに入るはずですから。スピードがそれほど速いとも感じませんでした、でも、僕達はぺースカーのすぐ後ろにいるからそうだけど、後は段々離れて(追いつこうとして結果的に)スビードが上がる。その辺の認識の甘さは主催者側にあったと思います。とにかくシグナルが見えるとか見えないとかではなく、ドライバーの立場に立った判断がないのが怖いです。あんな雨の中でドライバーがどれほどの緊張感や恐怖感を持っているか、タワーの中にいる人は誰も解ってくれていない。だからタワーの中に、現役とは言わないまでも、レーシングスピードの怖さを知っているドライバーが必要なんじゃないかと思います。それに事故が起きた後の対処の仕方は最悪でしたね。ただ今回の事故は主催者側だけに原因があるかと言うと、そうと言い切れないですよね。ドライバーだって自分の身は自分で守らないと。シグナルが見えないとかスピードが速すぎるというのなら、アクセルを緩めればいいわけでしょう。それをせずにスタートと思い込んだとしたら、それはその人のミスだと思います。
 とにかくすべての部分で主催者側と参加者側か離れている。相互関係はあってないようなものなんです。そこが一番の問題でしょうね。

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8番手スタート
No.50 ARTAスカイライン (GT500)
土屋武士 選手

 僕は去年までGT300で走っていましたから、あんな水しぶきで何も見えない状況の中であのぺースカーのスピードだったら、何かが起きても不思議はないということは良く解ります。
 GT300のクルマはGT500と比べて加速が鈍いから、全開にしてる時間は長いわけでしょ。前のクルマがグングン先にいったら、レースのスタートに備える意味でも、それに隊列を整える意味でもついてかなきゃと思うじゃないですか。GT500のクルマはぺースカーとの距離が後ろの方のクルマと比べれば短いから、ぺースカーが例えば150km/hから100km/hに減速したとしても50km/hの減速ですむからたいしたことないけど、後ろの方のクルマはその時点でまだ全開加速を続けてるわけですから、その時には80km/hだとか100km/hだとかの減速を強いられる。そんなときに例えば視界がきかない中から急に前にクルマが現れるようなことになったら、事故があっても無理はないと思います。僕が300でポールとったときも、雨のスタートでは意図的に前の500と距撃を置いて自分のぺースでスタートしました。500抜いてもそれほど意味ないですからね。
 ブリーフィング(*1)ではBコーナーを立ち上がったら2列になりなさいっていわれたのに、ぺースカーが先にどんどんいっちゃうから隊列どころじゃないでしょ。僕は「こんなに水があるんだからもう何周かするでしょ、スタートじゃないでしょ」と勝手に決めてたけど、それでも前のクルマを見失わないように走ろうと思ったら最終コーナーのクリッピングから全開ですからね。前のクルマを見失わないようにして、4速に入るか入らないか、左足でブレーキ踏みながら。
 例えば60km/hならピットレーンの制限速度と同じだから、水しぶきは上がらないでしょ。あの時はもう何も見えなくて、シグナルが点いてないのを確認できたのはその下をくぐり抜ける時ですから。
 去年のF3のとき(*2)と一緒ですよ。ドライバーの責任にして、自分たちは責任を逃れて。原因が解ってるのにいわないでしょ。釈然としないですよね。それに富士にああしてくれ、こうしてくれといっても「お金がない」だとか「FIAの公認はちゃんととれてる」だとかいわれて、何も変わらない。
 ドライバーには責任ないと思います。だって何も見えないんだもん。スタートした、しないの問題じゃない。それ以前の問題です。

*1:レース前に競技委員とドライバーらが連絡事項、注意事項などを打ち合わせすること
*2:
97年10月のF3選手権、富士のストレートで起きた横山選手の死亡事故

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10番スタート
No.12 カルソニックスカイライン (GT500)
黒沢琢弥 選手

 斜め前を走っている中子さん(*1)以外何も見えなかったので、それを見ながらぺースを合わせていました。真ん前にいるはずの蛍光色のARTAのマシンも見えなかったんです。だからオカマを掘らないように、中子さんの斜め後ろで様子を見ながら走った。
 そんな状況ですからぺースカーが見えないのはもちろん、コントロールタワーもシグナルも何も見えませんでした。最終コーナーに新しく設置されたと言うSCボード(*2)だって、全然見えませんでしたよ。だから最終コーナーを上り始めてすぐに、無線を入れたんです。「シクナルが変わったら教えてくれ」と。するとピットから「ちょっと待って、あ、ぺースカーが入らないからもう1周だ」と言われました。ピットでも慌てているようでしたね。
 でも、その時に思っていたのは「全然見えないのに、このままスタートするのか?」ということ、Bコーナーでは1速でしたが、最終コーナーでは3速まで入りましたから、ぺースは速かったと思います。あのままスタートしたら、あの事故は起こらなくても別の事故が起こっていたでしょうね。
 事故の後のブリーフィング(*1)では、ぺースカーのドライバーを呼んできて欲しいという要望も出ていました。再スタートする方向で動いていたので、皆の生の声を伝えたいということになって。でもミーティングで言っておくからということで済まされてしまいました。
 とにかく今回の事故については、今までの教訓が全く生かされてないということでしょうね。最近だって色々事故が起きているのに、この改善されなかったら一体何人が命を落とすのかな?と思ってしまいます。安全に円滑にレースを進めたいから意見を聞かせてくれ、と主催者から言われたら、僕らだっていくらでも協力しますよ。でも、ブリーフィングなんかで自主的に意見を言っても、全く相手にされないのが現状です。今、関谷さんが安全面のことでJAFに働きかけているそうですが、その努力が無駄にならなければいいなと思いますし、頼まれたら僕だっていくらでも協力するつもり。でも今までの例を見ると無駄になることが多いですよね。一ドライバーの愚痴と取られるだけで、だからメーカーとか企業が動いてくれないと、何も変わらないんじゃないかなと思うんですよね。


*1:通常、ブリーフィングはレース前だけだが、事故後中断になったので、競技委員から状況説明
と今後のこと(続行か中止か)を打ち合わせた
*2:セーフティカー(競技車が走行していながらレース中断状態にするためにコースに入るオフィシャルの車両)が入っていることを教える指示ボード

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18番スタート
No.6 ESSO Tiger Supra (GT500)
アンダース・オロフソン 選手

私たちモータースポーツに関わる人間は、それぞれ今回のアクシデントから何かしら学ぶべきことがあると思います。それによって、将来また同じようなアクシデントが起きた場合には、誰もが正しい行動を取れるようになり、また関係者全員の作業や救援活動をよりよいものにできるはずです。
 富士でのスタートについて、私の記憶は次のようなものです。私たちはペースカーに従って走っており、私のポジションは18番目でした、実際のところ、私は、ぺースカーに続いて1ラップした後、通常通りにレースがスタートしたものと思っていたのです。私たちが最終コーナーを立ち上がり、全車が少しずつスピードを上げ始めると、前方のクルマが巻き上げる水煙の量が増えて、視界は極端に悪化しました。
 私は自分のスピードを維持しながら、ただ前を行くクルマを見失わないようにしていました。ご理解いただけると思いますが、私には灰色の壁以外ほとんど何も見えす、走行は大変困難な状況でした。その時、私は左側から1台のポルシェが私を抜いて行ったのを見ました。まったく前が見えないというのにこのドライバーはかなり大きなリスクを冒しているなと私は思いました。そしてその直後、もう1台のポルシェが現れ、最初の1台よりもさらに速いスピードでその後を追っていきました。彼らはその直後に互いに接触したらしく、一方のポルシェがコースを横切るように右へ向きを変え、ピットロード出口付近のコンクリートウォールに激突しました。私の周りのクルマはこれらのクルマとの接触を避けようと試み、私も何とか難を逃れました。
 これが私の周りで起きたことについて、私自身が認識したことのすべてです。ただ、大変視界が悪かったため、出来事の細かい部分については、私の認識に多少の誤りがあるかもしれないことをご理解ください。
 私の考えでは、このような悪条件の場合、オーガナイザーはぺースカーに先導させたままレースをスタートさせ、最初の何周かはぺースカーに従って一列縦隊で走らせた方がよかったのではないかと思います。そしてぺースカーが何ラップ先導するのかを、レース前に全員に知らせておく必要もあると思います。

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19番手スタート
No.88 ウェディングディアブロGT-1 (GT500)
和田 久 選手

 最終コーナー立ち上がりから、雨としては異常なほどのペースで周りが行っちゃったんですよ。そうなったら「ついてかなあかんなあ」って僕も(アクセルを)踏んでいったんです。でもシグナルが見えないじゃないですか。ウチは無線がないんです。確認しないとスタート出来ないですよね。だから目視しなきゃと思って。アクセル緩めながら、多分、後ろの方はもっと見えないだろうと思いましたけど、コンロトールラインの真下くらいでシグナルがやっと見える位置まで来たら点いてないんです。で、後ろから突っ込まれるかなと思った。案の定GT300の何台かに抜かれて、ヤバイと思って右側インベタで通過してたら、ピットの切れ目あたりを(星野)薫さんのポルシェ(シグマテック)が当てられてて、僕の前をゆっくり右に向かってったんですよ、、無事通過して1コーナーを立ち上がったら坂の上の方に煙が見えたんで「誰か燃えたんだ」と解ったんです。僕が通過するときにはナインテンポルシェ(*1)は燃えてなかったように見えました。
 事故の発端はぺースカーが速すぎたことですよね。あんな雨だったら水煙が上がるのは解ってるじゃないですか。鈴鹿みたいにぺース落としていれば(*1)、あういう事故にはならなかった。クラッシュの予感はあったじゃないですか。特に後ろの方を走るGT300はシクナル見えないし、、前が行ったらスタートかなと思って踏むんですから色々な意味で認識が足りないですよ。あの時点でスタートさせないのも、今から思えば問題ですよね。皆あれだけのスピードで来てたんだからスタートしちゃった方が良かったかもしれない。あれで前がスピードを緩めたから、ああいう事故になったわけでしょ。

*1:砂子智彦選手の乗車した車両
*2:同年第1戦が行われた鈴鹿(晴天)では、正確な数字はないが、古屋の見た目では100km/h以下、80km/hをも下回ると感じられた

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