転載者注:
○本判決要旨は、A4で4ページに渡りプリントされていましたが、
 インターネット上での閲覧にはそぐわないので、1ページにしました。
 それ以外は体裁も含め、原書面をできるだけ忠実に写しました。
○本文中、「,」を使ってますが、原文のままです。
○本文中、文末に「。」がない部分がありますが、原文のままです。
○本文中、「脇坂薫一」となってますが、原文のままです。
 正しくは「脇阪薫一」です。


     
 

平成15年5月16日判決言渡
平成12年(ワ)第19831号 損害賠債請求事件
口頭弁論終結日 平成15年1月31日

判  決  要  旨

                 原 告  横山  溥ほか1名
                 被 告  ビクトリーサークルクラブほか5名

第1 主文

 1 原告らの請求をいずれも棄却する。
 2 訴訟費用は原告らの負担とする。


第2 事案の概要

 1 平成9年10月19日,静岡県駿東郡小山町大御神645番地4所在の富士
  インターナショナルスピードウェイ・インターナショナル・レーシングコース
  (以下「本件コース」という。)で,1997年全日本フォーミュラ3選手権
  第9戦の決勝レース(以下「本件レース」という。)が開催された。本件レー
  スは,横山崇を含め,予選を通過した22名が出走し,平成9年10月19日
  午前11時43分にスタートしたが,その直後である第1周中の午前11時4
  4分に,本件コースのサントリーコーナー付近において,先頭を争っていた脇
  坂薫一運転の競技車両とトム・コロネル運転の競技車両が接触し,走路を外れ
  るという事故(以下「本件先行事故」という。)が発生した。
 2 本件先行事故の発生を受けて,事故車両に対する救助作業等の安全を図るた
  め,競技車両群に隊列を組ませて低速走行させるように先導することを目的と
  して導入される車両であるセーフティーカーが導入された。競技長がセーフテ
  ィーカーの導入を決定すると,すべてのポスト(コントロールラインを含
  む。)において,黄旗の不動表示とSCボード(縦50センチメートル,横7
  2センチメートルの黒地に白文字で「SC」と表示された板)の表示(これら
  の表示を併せて,以下「SC表示」という。)が行われることになっており,
  すべての競技車両はセーフティーカーの後方に相互に車両5台以内の距離を保
  って整列しなければならず,追越しは禁止される。セーフティーカーの導入に
  より,レースは非競技化され,各車両は減速態勢に入る。
 3 その後,本件コースのメインストレートにあるセイコータワー直前において,
  午前11時45分,横山崇の運転する競技車両が,前方を走行していた平野功
  の運転する競技車両の後部車輪に接触し,上空に舞い上がってコナミブリッジ
  に激突し,落下して大破するという事故(以下「本件事故」という。)が発生
  し,崇は,本件事故により,同日午前11時50分ころ,死亡した
 4 そこで,横山崇の両親である原告らは,本件事故は,被告らがセーフティー
  カーの導入に関し,競技車両が安全に減速走行できるよう,各競技運転者に対
  して適正な時期にSC表示を行って,本件レースの非競技化を周知徹底し,競
  技車両群が加速走行しないよう制御すべき義務を負っていたにもかかわらず,
  これを懈怠した等に起因すると主張して,競技長であった被告津野一臣に対し
  ては不法行為に基づき,競技主催者であったとする被告ビクトリーサークルク
  ラブ,被告FISCOクラブ,被告富士スピードウェイ株式会社及ぴ被告株式
  会社フジテレビジョンに対しては債務不履行(安全確保義務違反)及び不法行
  為(被告津野の使用者責任)に基づき,競技の公認機構である被告社団法人日
  本自動車連盟に対しては債務不履行(安全確保義務違反等)に基づき,損害賠
  償を請求した。
 5 なお,崇は,本件レースに先立ち,「私達は本大会特別規則ならびに国際ス
  ポーツ法典,同付則および国内競技規則の規定に同意いたします。」などの誓
  約文言の記載のある「大会組織委員会」宛ての平成9年9月11日付け「参加
  に関する誓約書」(以下「本件誓約書」という。)に正運転者として署名し,
  捺印したが,本件誓約書には,主催者や競技長らに対する損害賠債講求権を事
  前に放棄する趣旨の記載があった。


第3 争点
   本訴の争点は,(1)被告社団法人日本自動車連盟を除く被告らの不法行為責任
  の成否,(2)被告津野を除く被告らの債務不履行責任の成否,(3)本件誓約書の効
  力,(4)原告らの損害額である。


第4 当裁判所の判断

 1 原告らの本訴請求の根拠は,(1)被告津野は,レースの開始から終了までの各
  種の情報を入手し,競技参加者の安全を確保する義務を負うべきところ,本件
  先行事故の発生を受けてセーフティーカーの導入を決定した場合には,競技車
  両が安全に減速走行できるように各競技運転者に対して適正な時期にSC表示
  を行って,本件レースの非競技化を周知徹底し,競技車両群が加速走行しない
  よう制御すぺき義務を負っていたこと,(2)本件レースの主催者である被告らは,
  レース参加契約上の安全確保義務として,セーフティーカーの導入が決定され
  た場合には各競技運転者に対して適切な時期に適切な方法でSC表示(伝達)
  を行い,競技車両群が加速走行しないよう制御すべき注意義務を負っていたこ
  とである。
 2 セーフティーカーは,事故が発生した場合に,その救助作業の安全を図り,
  第2事故の発生を防止することを目的として導入するものであり,とりわけ,
  事故に遭遇した運転者の救出を図ることは急速を要する事柄であること等から,
  競技長としては,他の競技車両の走行位置や速度等の事情との兼ね合いでセー
  フティーカー導入の決定ないしSC表示の実施の時期を図り,場合によっては
  暫時これを留保するといったことまで求められる筋合いではなく,セーフティ
  ーカー導入の必要を認めた以上は速やかにその導入を指示し,その場合には全
  ポストで一斉にSC表示をしなければならないものというべきである。被告津
  野が,本件先行事故を認識し,その処理を指示するまでに要した時聞は,14
  秒未満であったと認められるところ,被告津野が行った本件先行事故の処理に
  ついては,その判断及び指示をするために通常必要とされる限度を超えて時間
  がかかっていたものと断することは困難であるというほかなく,そこに注意義
  務違反と評価すべき遅延があったとは認めることができない。
 3 横山車を含む後続車両群に対しては,SC表示を全ポストで一斉に実施しな
  ければならないと規定する国際スポーツ法典付則H項の趣旨とするところは実
  現されており,本件レースの主催者について,適切な時期,方法でSC表示を
  行うべき注意義務に違反したとの事実を認めることはできない

                 東京地方裁判所民事第4部
                     裁判長裁判官  深見 敏正
                        裁判官  吉田  彩
                        裁判官  大野 博隆

 

 
     



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